思い出の作家たち
今日も店の片付けをするために銀座に来ました。
外出自粛は厳守したいものの、この片付けばかりは店を明け渡す期限があるのでやむおえません。
当初は、専門業者に頼むつもりだったのですが、こうしたコロナ騒動の最中、見知らぬ業者との対面や打ち合わせに気が引けてしまい、一人でやることに決めました。
朝の9時に銀座に着いたのですが、テレビでも放映していたように人の姿はまったくありません。
当店舗が入居しているビルは館内の全照明を落としているせいでうす暗く、怖さを感じます。
店は地下一階にあるので、スマホの電灯アプリを照らしながら階段を降りるのですが、不審者が潜んでいないかドキドキします。
鍵を開けて店内に入るとホッとしました。
今日は女性たちが着ていたドレスや靴などを処分します。
ハンガーからドレスを外していると後ろの棚に数冊の単行本が見えました。
手にとってみると全部が東野圭吾さんの本です。
女性の誰かが忘れていったのでしょう。
東野圭吾さんといえば、銀座がお好きなようでよくお見かけしました。
スラリとしたイケメンで、服装はいつも黒ずくめでした。
いつでしたか、お一人で歩かれていた時に、
「東野さん、当店にもお入りいただけませんか?」
冗談半分でお声がけしたら、
「客引きしてるんですか?」
と笑われました。
もちろん入っては頂けませんでした。
作家に限って言えば、「新宿鮫」を書かれた大沢有昌さんもお見かけしました。
この2月です。
いつものごとく店の前に立っていたらお二人で歩いて来られたので、思わず、
「大沢在昌さん!」
と呼び掛けてしまいました。
大沢さんは足を止められて、
「どこかで、お会いしましたか?」
と話しかけて下さいました。
彼の代表作でもある『新宿鮫』は読破していましたし、かなり以前に神田の古本屋街で行われたサイン会にも行っていたので、そのことをお話すると、
「ありがとう」
とおっしゃって去られました。
見るからにダンディーで、雰囲気もダンディーで、何ともステキな方でした。
北方謙三さんには、行こうとされていた店の場所を聞かれました。
作品からしてハードボイルドのイメージだったのですが、実際は小柄で優しそうなおじさんでした。
あとは…
伊集院静さんもお見かけしました。
かなりの長身で、足早に歩かれておりました。
トレンチコートがとてもお似合いでした。
漫画家の『島耕作』を描かれた弘兼憲史さんもお見かけしました。
ですが、何かの雑誌に、
「銀座は態のいい高級売春宿である」
といったようなエッセイを書かれていたので冷たい視線を送ってしまったような気がします。
それなりに読んでいた作家たちに会えたのは貴重で嬉しい体験でした。
銀座にいたからこそで、ミーハーと言われそうですがいつまでも覚えておきたい黄金の思い出です。