奇跡の再会
閉店して3日が経ちました。
店の片付けをするために銀座に来ました。
陽の明るい昼過ぎ、店舗の入っているビルに近づくと、入り口に小柄な男性が立っているのが見えました。
逆光でよく見えませんが、こっちを見て笑っているようです。
誰だろうと思いながら近づくと、
「!」
5年前まで、この七丁目界隈でホームレスをしていたおじさんでした。
写真の男性です。
心臓が射ぬかれるほど驚きました!
何故なら、銀座を去るに当たって最後にどうしてもこのおじさんに会いたいと切に願っていたからです。
このおじさんとのいきさつは以前『苦い悔恨』と題した記事に書かせていただきました。
「おじさん…なの? 本当におじさん?」
目の前に立っているのが嘘のようで、おじさんの両腕をつかんでは何度も揺さぶりました。
おじさんは笑いながらうなずいてくれました。
「私のこと、覚えてる?」
これにも、うんうんとうなずいてくれました。
それにしてもおじさんのこの変わりようはどうでしょう?
当時の、痩せ細って目だけがギョロリと鋭く、山奥に住む仙人を思わせた風貌は今はふっくらとして柔和な姿に変わっています。
着ているのも暖かそうなダウンです。
「おじさん、元気だったの?」
「今、どうしてるの?」
「急にいなくなったから心配してたのよ」
矢継ぎ早やに訊ねてしまいました。
おじさんは私の問いに答えようとしてくれるのですが、マスクをしている上に当時から抜け落ちていた歯もそのままのようでうまく聞き取れません。
『生活保護』と『アパート』の言葉は耳に入って来ました。
ちゃんと生活しているようです。
「あの時はごめんなさいね」
5年前、急に冷たい態度を取ってしまったことを謝りました。
この「ごめんなさい」が言いたくてどうしてもおじさんに会いたかったのです。
「時々、銀座に来てたの?」
この問いにはおじさんは首を横に振りました。
「店、もうやめたのよ。コロナウイルスが怖いから」
「おじさんも感染しないように気をつけてね。またいつか会いましょうね」
気持ちばかりのおこづかいをダウンのポケットにすべらせるとおじさんはペコリと頭を下げて去って行きました。
願っていた再会が叶いました。
新橋方面に歩いて行くおじさんの後ろ姿を見送りながら、ふとおじさんはどうして今日のこの時間、この場所にいたのだろう?
不思議に思いました。
まるで私が来るのを知っていたように…。