銀座のあしながおじさん
芸能人や著名人は銀座がお好きなようでよくお見かけします。
当店の女性たちも、元SMAPの草薙君が『ルブタン』に入るのを見たとか、お笑いの又吉さんが意外に小柄だったとか、興奮状態で店に入って来ることがあります。
私も、大好きな有吉さんをお見かけした時はテンションが上がりました。
夜の銀座にはそうした有名人とは別に、銀座に従事している者でなければ知り得ないすごいVIPが一般のお客さまの中にいたりします。
S会長がまさにそのお一人で、彼を知らない者は銀座ではモグリと言われていました。
S会長は情報関連の会社を経営されていてその財力は計り知れなかったようですが、私が紹介したい彼のすごさはそのようなものではありません。
銀座の裏方や底辺で働く者たちへの驚くような面倒見の良さです。
例えば、お客様の車を預かるポーターさん、
花売りのおばさん、
易者のおじさん、
つまみ類を売り歩くお兄さん、
路上で歌いながらCDを買ってもらう演歌歌手のお姉さん、
などなどがその恩恵に預かっていました。
会長はほぼ毎日銀座に出られるのですが、彼らを高級クラブに順繰りに呼んでは酒をふるまい、話や愚痴を聞き、そしておこずかいも渡していました。
行きつけのお寿司やさんでごちそうしているのも何度もお見かけしました。
まるであしながおじさんそのもので、長い年月銀座にいますが、彼のような方を他に存じあげません。
ご縁があってお客様になっていただきましたが、おかげで当店は周囲から一目置かれるようになりました。
八年前に鬼籍に入られましたが、すると易者のおじさんと演歌歌手のお姉さんが銀座から姿を消されました。
「見料に一万円も下さるんだよ」
「CDを一度に10枚も買ってくれるのよ」
会長に手を合わせていたお二人の姿が浮かびます。
花売りのおばさんはご健在で、小柄な体に花を抱えて今も売り歩いています。
目が合えば会釈します。
私たちはお互いS会長のチルドレンですから。
お客さまがいない日、店の前にポツンと立っていると、
「銀座のママたる者が物欲しげに突っ立てるんじゃないよ」
叱って、お店に入って下さいました。
昨日のことのように思い出されます。
S会長、天国でお元気ですか?
今もヘネシーの水割りを飲んでおられますか?
なつかしくてとてもとてもお会いしたいです。