夜の会議室
銀座のママは経験が豊富な上に、人を見る目もあると思われがちでしょっちゅう相談ごとを持ちかけられます。
つい先だっても同族会社の代表が大学を出たての息子さんを連れて来て、
「どうだ、こいつは将来トップに立てる器か?」
と品定めを頼まれました。
当たり前ですが、わかりません。
わかるわけがありません。
わかるのは、親に似ずイケメンでシャイだということだけです。
お客さまの悩みや愚痴に耳を傾けるのは仕事の一環として捉えていますから聞くだけは聞きますが、私自身の意見や考えは一切言わないようにしています。
うかつなことを口にしてことを大きくしたり、ひと様の人生を左右するのが怖いからです。
企業重役の奥方に訴えられたママを知っています。
重役のプライベートな相談に乗っていたところ、愛人に勘違いされてしまったのです。
「もうこりごり。ひと様のゴタゴタには関わりたくない」
自分のけつは自分で拭いてよ、とママは怒っていました。
偉くなれば孤独や疎外感に襲われることもあるでしょうし、足元をすくわれたりもするでしょう。
そうした折、口が固くて秘密を守ってくれる銀座のママは格好の存在なわけで、信頼したくなる気持ちはわからないでもありません。
ですが、ひと言言わせてもらえるなら彼らが思うほど銀座のママは、知恵や知識、そして世間に長けているわけではありません。
人を見る目があるなどとんでもないことです。
悩みやトラブルがあるなら、弁護士なりコンサルタントなりに相談してもらいたいものです。
きな臭い『夜の会議室』に頼っても得られるものは何もありません。
昔の時代の銀座ならともかく、今はそうした時代です。