誰のために何のために
今書いているこのブログは母親のために始めました。
店をオープンしたのは1985年(昭和61年)の3月3日ですが、その時母は店を見に来ませんでした。
同居していたのですが何かとぶつかり、うまくいっていなかったので来づらかったのだと思います。
私も積極的には誘いませんでした。
後になって母は、
「一度は見ておかないとね」
と言っていたのですが、地方に引っ越したり、タイミングが合わなかったりで34年が経った今なお一度も店に来ていません。
最近になって母が、銀座を特集したテレビ番組を好んで見ていることに気づきました。
散歩番組やグルメ番組など食い入るように見ています。
そして名前に覚えのある店が映ると、
「ここ、ずうっと前にトンカツサンドを買って来てくれた店じゃない? お肉が柔らかくておいしかったわね」
などとなつかしんでいます。
私は、親不孝をしていたのではないだろうか…?
ふっとそんな思いが胸をかすめたのは去年の秋でした。
お店を見に来ないながらも母は、
「お客さんは入ってるの?」
「女の子たちは居着いてるの?」
気になるようでたびたび訊いて来ました。
「まあまあね」
「それなりにね」
面倒くさがっておざなりにしか答えないものですから、その内には母は何も訊いて来なくなりました。
本当は店の状況を知りたくてしょうがなかったのだと思います。
店もきっと見たかった筈です。
これからでも見せてあげたいと思いました。
ですが、この1月で93歳を迎えた母をエレベーターのない地下1階の店に連れて行くのはもはや無理になりました。
しかしながら、話や写真を見せるくらいはいくらでも出来ます。
今さらながらですが、娘の働いている銀座や店の話をたくさん教えてあげたくなりました。
どんなお客さんが来るのか?
どんな女性たちが働いているのか?
今は週末だけしか会えないので、こうしたことを録音して聞かせたいと考えたのですが、耳が遠く補聴器をつけるのを嫌がりました。
それなら、
ご長寿作家の瀬戸内寂聴さんや佐藤愛子さんの本を、老眼鏡にハズキルーペを重ねて読んでいる母に打ってつけなのは書いたものを読んでもらうことでした。
ブログを始めようと思い立ったいきさつです。
初めてで、うまく書けるか心配でしたが、ともかく母が読みやすいことだけを心がけて、できるだけ事細かに綴りたいと思っています。
書きためたら、推敲して冊子にまとめます。
そしてプレゼントします。
万が一にも間に合わなかったら、何度も再生をせがまれた店内の動画と一緒に棺に入れます。
その時は天国で、大好きだった祖父母や叔母さんたちと読んでくれたらとてもとても嬉しいです。