五本のボトル
スティホームのさなかですが、銀座に来ました。
このところ、休業中の店を狙った空き巣が多発しているようで、ニュースを見るたび心臓をバクつかせていました。
店に、盗られて欲しくないものを残してきたからです。
写真の、5本のボトルです。
酒ごとき?
と、失笑を買いそうですが、私にとってはかけがえのない大事なものです。
全部が鬼籍に入られたお客様のボトルですが、2週間前におおむねの片付けを済ませた後、
「引き渡しまで店をお守り下さい」
と手を合わせてあえてボトル棚に置いて来ました。
それを今日取りに来たのですが、街中に人がいないのは前回来た時と同じです。
あちこちのショーウインドウから商品が撤去されて消えているのには驚ろかされます。
空き巣対策と思われますが、高級靴で有名な『ルブタン』や『ヴィトン』、『ドルチェ&ガッバーナ』など、軒並みです。
当ビルは、照明を落としているせいで薄暗く、誰が潜んでいてもおかしくない様相です。
怖いです。
鍵を開けて店内に入ると5本のボトルは無事でした。
当店は高級クラブではないので、高級酒も値の張る絵画なども飾っていません。
もしも空き巣が侵入した際、盗る物がないのに腹を立ててこれらのボトルを割ったり持ち去ったりしないか心配だったのです。
用意して来たバスタオルに1本ずつくるむと、頑丈な手提げ袋に入れて店を出ました。
かなりの重さですがホッとしました。
今、93歳になる母と地方で暮らしています。
乗り継ぎが良くないので片道4時間近くかかりますが夕方には戻れそうです。
帰ったら母にこれらのボトルにまつわる話をしてあげようと思います。
このボトルを飲まれていたお客様はね…
「34年前に開店した時、一番乗りで来て下さったのよ」
この方はね…
「がんの闘病中に病院を抜け出して飲みに来たのよ」
この方はね…
「84歳まで来店された博士で、ノーベル賞候補にあがったこともあるのよ」
この方は…
この方は…
「すっごくすっごくお世話になって、この方たちがいなかったらお店は続けて来れなかったのよ」
そう教えたら、母もありがたがってこの5本のボトルに手を合わせてくれる筈です。