図書カード
机の引き出しに包装された図書カードが20セットばかり入っています。
4月のお客様の人事異動に向けて用意しておいたものです。
当店は、お中元やお歳暮もそうですが、お客様のお祝いごとにも図書カードを差し上げてきました。
「孫に絵本をプレゼントして喜ばれた」
だの、
「ちょうど娘の参考書を買おうと思っていたんだ」
だのの嬉しいお言葉をちょうだいすることが多かったからです。
コロナウイルスが騒がれ出した2月頃、
「まだ内緒だけど内示が出たんだよ」
と、ご昇進の報告にいらしてくれたお客様がいました。
「福岡に栄転が決まった」
と、初めての単身赴任を楽しみにされていたお客様もおりました。
閉店になることがわかっていたならせめて彼らにだけでもあの時に図書カードをお渡ししておけば良かったと悔やまれてなりません。
4月に定年退職されて故郷に戻るとおっしゃっていたお客様にもお渡ししたかったです。
郵送という手段もありますが、そもそもがお客様のどなたにもまだ閉店を知らせていません。
入り口の扉にも何の張り紙もしていません。
当店で働いていた女性から聞かされたお客様はいると思いますが、それ以外の方々は政府の要請を受けて自粛休業中と思っている筈です。
このコロナ騒動が収まったらまた営業を再開するものと…。
ですが、そんな日はもう来ません。
本来なら長年のご愛顧を深謝してお礼状を送るべきところ、それもしていません。
今年は新聞の人事ニュースに目を通しませんでしたし、チェックもしませんでした。
しかしながらご昇進、ご昇格、ご栄転されたお客様方はおられた筈です。
もうお会いすることは叶わなくなったので、お世話になったその方々に、ここにお祝いの言葉を述べさせていただきたく思います。
『このたびは誠におめでとうございます。
私も自分のことのように嬉しく思っております。
今後のますますのご活躍とご栄進を心よりお祈りいたします』
図書カードを差し上げることは叶いませんでしたが、どうかこの気持ちだけでも届きますように。