ホームレスに毛皮のコートをプレゼント
街はX'masモード一色ですが、この時期になると決まって思い出すホステスがいます。
。
名前を佐江子と言って、ホステス時代に同じ店で働いていた女性です。
その佐江子が、あるX'masイブの夜に声をかけて来ました。
「今日予定ある? なかったら割り勘で飲みに行かない?」
それほど親しくしていたわけではなかったので驚きましたが、彼氏もいなければ別段用事もなかったのでOKして二人で六本木に繰り出しました。
そこで、ディスコを皮切りにダーツbar、カラオケと夜が明けるまで遊びまくりました。
遊び疲れて、
「さあ、帰ろうか」
と、明け方の街をタクシーを探しながら歩いていた時です。
彼女の、ピンヒールを履いた長い脚がシャッターを下ろした店の前でピタリと止まりました。
見るとそこには、段ボールにくるまってホームレスが寝ていました。
「どうしたの? 帰ろうよ」
促すも佐江子はその場から動こうとしません。
じっとそのホームレスを見下ろしていました。
と、次の瞬間、羽織っていた毛皮のロングコートを肩から滑らせると、
「おじさん、風邪引かないでよ」
ホームレスの体にふわりとかけました。
「ちょ、ちょっと何やってんのよ!」
慌てて駆け寄り、毛皮のコートをホームレスからはがそうとしましたが、
「余計なことしないで! クリスマスプレゼントなんだから」
強い力と声で止められました。
その日は家に帰っても眠れませんでした。
彼女が羽織っていたのは、毛並みが宝石のようにきらきら輝く、ホワイトミンクの最高級品です。
人気もあって稼いでいたとはいえ、それでもそう簡単に買えるしろものではありません。
どうして、ホームレスにあげたんだろう?
酔っていたからだろうか?
いやいや、私の手をふりほどいたあの時の目は酔っていなかった…。
それなら何故?
おとうさんがホームレスをしていたとか?
想像を巡らすもさっぱりわかりません。
翌日彼女は出勤して来ませんでした。
店長に聞いたら、
「昨日でやめたんだよ」
と教えられました。
その後彼女と会うことはありませんが、クリスマスシーズンが訪れるたびこうして思い出しています。