女の客引き
店の前に立っていると、
「今日もダメだわねぇ。歩いてるのは中国人ばかりで…」
ぶつくさ言いながら派手な着物を着た、初老の女性が寄って来ました。
彼女は清乃と言って、女だてらに客引きをしています。
ホステス時代の大先輩です。
彼女は店を持つことなくホステス一筋でやってきましたが、歳を取って雇ってくれる店がなくなると客引きに転じました。
もう十年にもなります。
銀座界隈に女の客引きは4人ほどいるそうですが、安心感を持たれるのか男の客引きより稼げるそうです。
それでも客引きの仕事は大変そうです。
客が見つからない日は寒かろうが雨だろうが見つかるまで路上に立って声掛けしています。
それでも、
「ホステスやってるよりよほどいいわよ。何たって気楽だからね」
と彼女は言います。
少し前、
「もし私服のオトリに連行されたら、身元引き受け人になってよね」
真顔で頼まれました。
少し前、警察主催の『客引き撲滅キャンペーン』が並木通りで行われたのですが、それの前後に何人かの客引きが捕まったので気弱になっているようでした。
「もちろんですよ」
二つ返事で引き受けました。
警察の講習会では、
「従業員には絶対客引きをさせないように。客引きを見つけたら通報するように」
経営者として厳しく言い渡されています。
それでも、
彼女には暇な時、何度もお客を紹介してもらいましたし、新米ホステスの頃は着物の着付けを教わったり、数えきれないほどおごっても貰いました。
恩は忘れていません。
やくざではありませんが銀座の女とて義理と人情は大事です。
捕まったら必ず築地警察署に迎えに行きます。