サラリーマンなるもの
閉店まぎわ、
「一杯だけ飲ませて!」
商社にお勤めのKさんがなだれ込むように入って来られました。
珍しくお一人で、だいぶ飲まれているようです。
座るなり、
「ママ、俺、会社辞めることにした!
いいだろう?」
「いいも何も…」
私の許可が要る話でもありません。
Kさん語るに、5年間のシンガポール駐在を終えてようやく日本に戻ったら今度はミャンマーへ行けと命ぜられたそうなのです。
「ひどいだろ? カミさんに泣かれちゃったよ」
シンガポールに赴任される前は確かベトナムだったはずです。
「俺を嫌ってる上司がいてさ、やつが現役の間は俺を絶対日本に戻さないって息巻いてるらしいんだよ。それを聞いたら踏ん切りがついてさ」
仕事を辞めたら子供と一緒にいられるし、購入したばかりのマンションにも住めると彼は泣き笑いの表情を見せました。
当店のお客様の9割はサラリーマンです。
長い年月、彼らを見て来てしみじみ思うことの一つに、サラリーマンは上司に嫌われたらおしまいだというのがあります。
サラリーマンに取っての「人間関係」とは「上司との折り合い」に他ならない気がします。
いつでしたか、何かの雑誌で真冬の北海道に飛ばされたサラリーマンの記事を読みました。
そこでの彼の仕事は朝から夕方まで商店街の雪かきだけで、表向きは地域住民との友好を図るためと言いながら、要はいじめだったわけです。
いい大学に入るために切磋琢磨して、一流企業に入社出来たと思いきや、こうした人生が待ち受けていたなど誰が想像出来たでしょう。
現代のサラリーマンは、上司のさじ加減一つでどのようにもされてしまう弱い存在です。
昔の歌にあったような気楽な稼業では決してありません。
いつでしたか坂上忍さんが、
「一番尊敬するのはサラリーマン。その人たちのおかげで食えている」
とテレビで話されていました。
まったくもって同感です。
日本の労働人口の82%はサラリーマンだそうです。
彼らが日本を支えていると言っても過言ではありません。
そうした彼らが当店に足を運んでくれた時は、楽しませたり喜ばせたりは出来なくてもせめて、イヤな思いだけは決してさせないように固く固く自身に言い聞かせております。
イヤな思いやツラい思いは会社で充分な筈ですから。