会員制はやめました
開店当初より『会員制』を貫いて来ましたがここに来てこのプレートを外しました。
不景気でお客が減り、そんなことを言っていられなくなったからです。
つい先頃も、
「新しい店を開拓したいから」
と二人連れのお客様が入って来られたので喜んでお迎えしました。
これまではこうしたフリー客が月に三組くらい来ていたのですが、当たり前のように断っていました。
今にして思えば、何ともったいないことをしていたのだとほぞを噛みたくなります。
銀座のクラブの大概は『会員制』を謳っています。
その理由は、
「知らない客と飲みたくないから」
「高額な飲食代をきちんと払ってもらえるか心配だから」
「格付けのため」
などなどお店によってさまざまです。
この『会員制』を巡って過去に事件(?)があったので書き残したいと思います。
美容室が混んでいていつもより遅く、9時過ぎに店に入った時です。
奥のソファ席に、見知らぬ中年男性が4人座っていました。
全員がいかにもといったそれ筋ふうで、頭は短く刈り、白のスーツを着ていました。
片目がつぶれた男もいて、目が合った時はぞわっとしました。
固まって動けないでいると、
「ママさんかい? 今日は世話になるよ。シャンパンでも抜いてくれるかい?」
中央で足を組んだ親分風情の男に話しかけられました。
『アウトレイジ』そのもので心臓がバクつきましたが、女性たちも怯えていたので、
「申し訳ございませんが、当店は会員のお客様だけでやらせていただいております。お引き取り願えませんでしょうか?」
勇気を振り絞って彼らの前に上体を折りました。
すると若干の沈黙はあったものの、
「そうか、それは申し訳なかった」
真ん中の親分風情が立ち上がってくれて、他もおとなしく帰ってくれました。
この時ほど『会員制』にしておいて良かったと思ったことはありません。
ところがです。
オチがありました。
翌日、いつもの薬局やに行くと店主が寄って来て、
「昨日、坊さんたち行ったかい? いい店ないかって訊かれたからママのとこ紹介したんだけど。彼ら、京都の有名な坊さんたちらしいよ」
何と、紙一重な…。
開いた口がふさがらないとはこのことでした。
後日談ですが、この4人のお坊さん、ポーターに紹介されたクラブで金額は言えませんが大盤振る舞いされたそうです。